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山崎浩二のSmall Beauty World

第40回「ベタ・トリプルクロス」

ベタ・トリプルクロスの雄はグリーンとブルーの二色のタイプが存在する。ブリーディングするとややブルーのタイプの方が多く現れるそうだ。体型も細身でワイルドの血を濃く残している。この色彩で体型がプラカットのようになってしまったらワイルド系の魅力が大なしである。

2016年の春頃、スマラグディナのギターに関してあれこれ調べていた際に、YouTubeで気になる動画を見つけてしまった。そこにはマハチャイエンシスとスマラグディナ・ギターとスティクトスのハイブリッドとされるベタの闘争する姿があった。それも同じ体型、模様でグリーンの魚とブルーの魚が闘っていた。体型は細身で明らかにワイルドの血筋を残している。自分が気になったのは各ヒレに入る細い模様、特に尻ビレに不規則に入る黒斑はどのワイルドでも顕著に見られない特徴であった。大したことのない特徴なのだが、それが妙にインパクトが強くて記憶に焼き付いてしまった。たまたま交配してできてしまったハイブリッドなのだろうと、その当時はそれ以上追求しようとは思わず、頭の片隅に忘れ去っていた。
2016年の秋になりまたタイに行く機会ができ、サンデーマーケットのベタ屋をうろついていると、ある馴染みのショップに片隅に見覚えのある特徴の魚が!そうあの動画のハイブリッドのベタ。思わず値段を聞くと想像より高い値段だったので、衝動買いせずに冷静に考える事に。この値段ではそうすぐには売れないであろうという考えであった。雄のみであったのも衝動買いを抑える要因にもなった。この際は、隣国に出かけなければいけない事もあり、この魚を購入する事はなかった。

雄同士で闘争するベタ・トリプルクロス。闘争性はワイルドよりも強く、怯えたりする様子は見られない。各ヒレを広げて激しく闘争し、この際に色彩は最高潮に達する。
ベタ・トリプルクロスのブルー・タイプ。繁殖させるとこちらの色彩の個体の方が多く出現するという。ぜひブリーディングして確かめてみたいものである。

2017年になり、寒さから逃げるように1月末にタイへ仕事に出かけた。今回はほとんど人から頼まれた仕事もなく、自分の好みであるベタをゆっくりと眺める事ができた。ふと以前に見たハイブリッドのベタの事を思い出し、知り合いのベタ屋でその魚を探していると話すと、何とそこの店にちょうど入荷したばかりだというではないか!まだケースに開けられていないベタがビニール袋の中に。しかもちゃんと雌まで揃っている。なんという偶然であろうか?こういう巡り合わせは、大事にしなければいけないので、今度は自分に正直に衝動買いである。値段はやはりその店のワイルド・ベタの中で最高価格。とは言え、仕事なので仕方ない。撮影の場合、同じようなサイズの雄の魚を2匹使用するのであるが、この魚は好都合な事に雄はグリーンとブルーの2タイプがいる。数ペアの中から厳選してグリーンとブルーの2ペアを選んだ。それが今回ここで紹介している魚達である。

通常ワイルド・ベタは平常時は全く地味な色彩で、闘争時には変身するかのように鮮やかに発色する種類が多い。しかし、このハイブリッドは、平常時でもギラギラした体色をしている。ワイルド・ベタの場合、神経質な種類や個体では雄2匹を一緒にしただけでは闘争を始めず怯えてしまう個体も多い。ところがこの魚達はすぐに闘争を始めて美しい姿を披露してくれた。この闘争性はプラカット並みである。カメラマンにとってこんな有難いモデルはいない。ほんの1時間ほどで撮影も無事に終了。

ベタ・トリプルクロスのグリーン・タイプ。ワイルド・ベタ好きにはこちらの色彩の方が好まれるようだ。改良品種と言わなければ、ボルネオ辺りの新種ベタと言っても通用しそうな雰囲気だ。

さて、このハイブリッドのベタ。種間雑種のF2かF3ぐらいに思っていたのだが、意外な事にもうこの姿になって2年ほど維持されているそうである。こうなるともうハイブリッドと言うよりも立派な改良品種である。観賞魚の趣味の世界では、ハイブリッドと言うと、純系の種類に比べて一段劣るというイメージもなくはない。間違って血が混ざってしまったハイブリッドと目的を持って交配したハイブリッドでは全く異なるものなのである。今回紹介している魚はまだタイでも良い名前がない状況のようなので、ここでは便宜上トリプルクロスと呼ぶ事にしたい。これから市場に流通するようになり、もっと相応しいネーミングがされたならその名前で呼ぶのがいいだろう。ただハイブリッドと呼ぶには抵抗のある見事な改良品種なので、誤解されにくい名称にしておきたいだけである。

ベタ・トリプルクロスの雌個体。雄よりは地味だがうっすらとした色彩が美しい。各ヒレには特徴的なスポットも見える。やはり雄同様にブルーとグリーンの2タイプが現れるそうだ。

このベタをどのような交配で作出したのか、とりあえず知り合いに聞いてきたのでここで紹介しよう。ただし、これは自分で試したわけではなく、人聞きしただけの事なので、信憑性については責任持てないのは御理解頂きたい。

最初の元親となったのは、マハチャイエンシス・グリーンとベタ・スティクトスとの事だが、どちらを雌雄に使ったのかは不明である。この交配で得た子供同士を2回掛け合わせたそうなのだが、頭部のみだけの色彩に満足しなかったため、また新たな魚を掛け合わせたそうだ。それがベタ・スマラグディナのギターと呼ばれるタイプ(このコラムでも紹介済み)。これで得た子供に更にもう一度スマラグディナのギターを掛け合わせたそうだ。こうしてトリプルクロスの原型が完成したようだ。体型やヒレの模様などはほぼ固定されていて、1年前の動画を見ていても、ほぼ変化はない。雄の色彩だけはグリーンを基調とする色彩とブルーを基調とする色彩に分かれるようだ。その比率は50%ではなく、ブルーの方がやや多く出現するそうである。このグリーンとブルーの二色が現れるのはマハチャイエンシス・グリーンの血筋であろう。尾びれの軟条に沿って現れる黒斑は明らかにスティクトスの特徴であり、尻ビレの不規則な黒斑はマハチャイエンシスに由来するものと思われる。スマラグディナ・ギターの血は色彩に引き継がれているのであろう。

ベタ・マハチャイエンシスの雄個体。ベタ・トリプルクロスの雄の尻ビレに見られる不規則な黒斑は本種から受け継いだようである。はっきりとは見えにくいがマハチャイエンシスには存在するが、スマラグディナやスティクトスには存在しない。
ベタ・スティクトスの雄個体。カンボジアのストゥントゥレン産で、スマラグディナに近縁な種類である。各ヒレは短くあまり伸張しないのが特徴。ベタ・トリプルクロスの尾びれの黒斑は完全に本種から受け継いでいる。
ベタ・スマラグディナ・ギターの雄個体。ベタ・トリプルクロスには特に本種の特徴は強く現れていない。尾びれの黒斑は本種ではなく、スティクトスの方である。全体的なギラギラした色彩に本種が関係しているのかもしれない。

タイでも最近はワイルド・ベタの人気が高くなり、スマラグディナやインベリスの地域変異なども大切に維持されるようになっている。またそれとは別方向で、ワイルド・ベタの改良品種も各種作出されている。日本にはあまり紹介される機会が少ないが、マハチャイエンシス・グリーンやブルー、スマラグディナのコッパーなどはもう定番となっている。今回紹介したトリプルクロスだけでなく、これからも様々な交配で新しいタイプが作出される事だろう。プラカットなどの改良品種や純系のワイルド・ベタとは別のカテゴリーで改良系ワイルド・ベタの世界をお楽しみ頂きたい。

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