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山崎浩二のSmall Beauty World

第38回「ベタ・スマラグディナ ”ギター”」

オス同士で闘争をするベタ・スマラグディナ・ギターの繁殖個体。スマラグディナの多くは繁殖個体の方が各ヒレが伸張し美しくなる傾向がある。尾びれの格子状の模様も整っており、すでにアクアリウム・ストレインと呼べるかもしれない。

2016年の4月、例によってバンコクのサンデーマーケットのベタ屋を覗いていると、ワイルド・ベタ主体のお店で新しいベタが入荷したから見ていきな!と誘われた。やや暗めのガラスケースを覗くと、そこには元気にフレアリングするスマラグディナの姿があった。しかし、よく見るとどうも通常のスマラグディナと雰囲気が異なっている。そこにいた個体達は皆尾びれの軟条の間に格子状の模様が入っているのだ。こうした特徴は通常のスマラグディナには見られない。
店主にこのスマラグディナの素性を尋ねると、タイ東北部のノンカイ産だという。しかし、自分が以前ノンカイに行った際に採集したスマラグディナにはこのような特徴はなかった。撮影した写真も残っていたので確認したが、ノンカイ産のスマラグディナはスタンダードなタイプであった。

そんな事もあり、自分でもちょっと情報を集めてみようと思いネット検索をしてみた。その結果、このノンカイ産とされるスマラグディナはすでに2005年には記録されていたようである。しかし、ノンカイ産と言う情報は誤りで、正確にはブンカンのブンコンロン(Bung Khong Lhong)湖周辺に生息する個体群である事が判明した。このブンカン県は以前はノンカイ県に含まれおり、つい最近分離されたので、全くの誤りではないのだが。また、この個体群にはギター(Guitar)という愛称が付けられていることなどが判った。このギターとは楽器のギターの事で、闘争時の雄の腹ビレの動きがギターを弾く際の動きに似ているからだそうである。これに関してはこの動きはこの個体群だけでないような気もするのだが・・・。タイではこのギターと言う愛称が浸透しているようなので、ここでもギターと呼ぶ事にしたい。

オリジナルのギターの生息するブンコンロン湖の生息場所。湖の中心部ではなく、岸際の草の間を好んで生息している。乾季にはあちこちで泡巣を作っている様子が見られるそうである。

ネット検索した際に、英語で詳細に生息場所の様子などが書かれたサイトも見つける事ができた。さすがにタイに長く通っていてもタイ語は全く読めないので、タイ語オンリーのサイトはすぐにスルーしてしまうことになる。英語だと何とか自力で読もうという気になる。最近は、そこそこ使える翻訳ソフトなどもあり、英語なら何とかなるがタイ語だとダメダメである。詳細な生息場所の情報なども得る事ができたので、いつかそこに行って採集をしたいと考えていたところ、すぐにその機会が来た。2016年の10月、ビザの関係でラオスに出かける機会があり、その帰りにこのギターの生息場所を訪れてみたのである。彼らの生息場所であるブンコンロン湖はイサンと呼ばれるタイ東北部のブンカン県に位置している。最近はスマホが普及しているので、GPSを使えば難なく見つける事ができる。

今回、確認したい事項がひとつあった。タイのサイトではこのブンコンロン湖より高地になるセカ(サイトではSegaとあったが、現地ではSekaという表記であった)にいる個体群は流水環境に生息している特殊な個体群であるとの記述があった。通常、スプレンデンス・グループに属するベタは繁殖の際に泡巣を作ることから、湿地や水田などの止水域を生息場所としている。唯一カンボジアに生息するベタ・スティクトスだけは、緩やかに流れる小河川に生息している事を自分の眼で確認している。このスティクトスと同じように流水に適応した魚が本当にいるのか確認したかったのである。

ブンコンロン湖で採集したワイルドのオス個体。やや小ぶりで尾びれの模様にも乱れが見られる。まだ洗練されていない印象を受ける。採集した個体の中には尾びれ中央部がやや伸張している個体も確認できた。
尾びれの中央部が伸張しているギターの繁殖個体。採集個体の中からこの特徴を持った魚を選び、累代繁殖させたのであろう。ただしこの特徴は成長した成魚でないとはっきりしない。

まずはラオスのサワナケートからメコン川の国境を抜けてタイ側のムクダハンに戻ってきた。GPSで確認するとそこからブンコンロン湖まではそう遠くない。とりあえずその晩はムクダハンのホテルで疲れを取り、翌朝から目的地へと向かった。昼食に道路沿いの食堂でガイヤーン、ソムタム、カオニャオという大好物のイサン料理に舌鼓を打ち、そこでブンコンロン湖について尋ねると、通り過ぎた手前の道を曲がってすぐだと言われた。
ワクワクしながら車を走らせると、内陸部なのになぜかあちこちに英語でビーチと書いてある。このブンコンロン湖は想像していたよりも大きな湖で、場所によっては遊泳場となっており、そのため何々ビーチと表記されていたのである。かなりの大場所になるので、現地で飲み物を購入しながらベタについて更に地元民に尋ねてみた。こうした聞き込みは時として重要なインフォメーションとなる。
ほどなくしてベタで闘魚をしているという人物と出会うことができた。そのおっちゃんにベタが採れる場所へと案内してもらう。連れて行ってもらったのは、ブンコンロン湖の端の林の中の湿地。水はクリアではなくややブラウンに色づいている。経験上、間違いなくベタが生息していると思われる場所なのだが、なかなか網に入って来ない。現地の人が言うには、このベタを採集するなら4月か5月の乾期が最適だそうだ。その時期だとあちこちに泡巣を作っている魚が見られると言う。今の季節だとまだ水位が高くて採集は難しいようだ。とは言え、数匹は採れるだろうと根気良く採集を続けた。

初ゲットした個体は残念ながら雌。続けて婚姻色の出た雄も網に入って来て、嫌でも気分は盛り上がる。やはり情報通りここのスマラグディナの雄の尾びれには格子状の模様が入っている。なんだかんだで10匹程採集して初日の採集を終えた。
翌日はブンコンロン湖から数キロ離れたセカという場所を目指した。サイトには高地と書いてあったが、そんなに高地ではない。ここにも小さな湖があり、この湖畔に網を入れるとすぐに小さな個体が入って来た。しばらく採集を続けるとやっと色彩の出た雄個体が採れた。やはりここの個体も尾びれの特徴はブンコンロン湖産と一緒である。
次にサイトに書いてある流水の環境を探してみた。湖から流れ出している細流があったが、確かにここにもギターは生息しているが個体数は少なく、メインの生息場所ではなさそうであった。
丸一日この辺りで採集していたが、やはりここでも生息場所の多くは止水域の草の間であった。サイトに書いてあるように、流水という特殊な環境に適応した個体群の存在は確認できなかったというのが結論である。たまたま増水した時期に流された個体を見て、そのように考えたのではないだろうか?

ブンコンロン湖から数キロ離れたセカという場所のギターの生息場所。水質はpH6.0、総硬度、炭酸塩硬度共に0、硝酸塩、亜硝酸塩共に0、ブンコンロン湖とほとんど同じである。ここでもメインの生息場所は岸際の草の間である。ブンコンロン湖よりも生息密度は多いように感じられた。
セカで採集したギターのオス個体。採集してすぐは美しいグリーンの体色が目立つのだが、すぐに色褪せてしまう。本個体群の特徴である尾びれの格子状の模様も確認できる。

今回、自分の眼で現地を見て来て、雄の中には尾びれがややスペード状になる個体も存在していた。ギターの名前で趣味界で累代された魚の中にスペード状の尾びれを有する個体がいるのもこれで納得できた。またギターは採集した個体よりも、繁殖して販売されている個体の方が、尾びれの模様も美しいようだ。これは模様が美しい個体を累代して繁殖させているためかと思われる。サンデーマーケットなどで販売されているギターは、そういう意味ではもうワイルドと言うよりもアクアリウム・ストレインと言った方がいいのかもしれない。スマラグディナ一般に言える事なのだが、ワイルドよりも繁殖させた個体の方が各ヒレが伸長する傾向が見られる。間違いなくワイルド個体よりもブリード個体の方が見栄えがするのである。

また、最近では近縁種のマハチャイエンシスやスティクトスと交雑させた個体なども出回っているようだ。これはこれで楽しみとしては有りなので、ワイルドとはしっかりと区別して楽しむと良いだろう。

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