山崎浩二のSmall Beauty World

第35回「インドシナオオタイコウチ」

インドシナオオタイコウチの成虫。タイコウチの仲間の中では最大級の種類で、体長は日本産のタイコウチの約1.5倍はある。普段はあまり動かずにじっとして獲物が寄って来るのを待っている。

以前、タイの水辺をメインにフィールド撮影をしていると話しをしたら、ある人からインドシナオオタイコウチを見た事がありませんか?と尋ねられた事がある。フィールドでは魚や水草だけでなく、当然水生昆虫にも興味があり、撮影対象としている。しかし、その当時は名前は知っていたが、まだインドシナオオタイコウチには出会っていなかった。
インドシナオオタイコウチはその名が示すようにインドシナ半島に生息する大型のタイコウチである。日本産のタイコウチよりもふた回りは大きいというその巨大な姿を自分の眼でも確認してみたくて、魚採集のついでにいつも気にしていた。しかし、いつも網に入って来るのは、日本産のタイコウチとほぼ同じサイズのタイワンタイコウチばかり。自分の中では、採集している場所が生息域と外れているのだろうと考えていた。ところが、あるときタイ東北部のチャヤプーンという場所を訪れた際に、初めて憧れのインドシナオオタイコウチと出会う事が出来たのである。
その生息場所を見て、今までは探していた場所が間違っていたのだと理解する事が出来た。

チャヤプーンはやや標高の高い場所で、小高い丘の様な場所が多い。その間を流れている細流や湿地にインドシナオオタイコウチは生息していたのである。以前、一生懸命探していた場所は、同じタイ東北部でも平地の田んぼや湿地。ベタ・スマラグディナが生息している様な場所では、いくら採集してもすべてタイワンタイコウチであった。

上が日本産とほぼ同サイズのタイワンタイコウチ。下がインドシナオオタイコウチ。こうして比較してみると、いかに大きいかが理解できるだろう。前脚のカマや各脚に縞模様が入るのも特徴である。
インドシナオオタイコウチの終礼幼虫。この段階で既に日本産のタイコウチよりも大型である。

日本産のタイコウチの生息場所を基準に考えてしまっていたのが間違いだったようだ。知ってしまえばコロンブスの卵であるが、タイワンタイコウチとインドシナオオタイコウチはしっかりと棲み分けをしていたのである。その後タイ西部のカンチャナブリとミャンマーの国境付近でも、流れのある細流でインドシナオオタイコウチの姿を確認する事ができた。生物の観察は、このように経験を積んで地道にレベルアップしていかなければいけないのである。

生息場所で見かけたインドシナオオタイコウチの幼虫。体色も泥に良く似ていて保護色となっているが、ほとんど動かないため体の上に泥が降り積もり、さらに見分けがつきにくくなっている。
チャヤプーンの生息場所で見かけたインドシナオオタイコウチのペア。自然下では二匹一緒に見かけた場合はほとんどペアである。飼育下ではよく交尾しているのも観察出来る。

さて、チャヤプーンでのインドシナオオタイコウチの生息場所の様子を報告したい。
平地の広がる場所の多いタイ東北部の中ではやや特殊な環境で、チャヤプーンは丘陵地が多い。その中を幅の狭い小さい沢が流れている場所がある。この沢は雨期に川幅を増して湿地の様な環境になる場所もある。こうしたやや流れの穏やかな環境にインドシナオオタイコウチは生息している。
自分が訪れた時期は、雨期だったためか水が多く、流れから溢れ出た水で多くの湿地が出来上がっていた。そのような場所をインドシナオオタイコウチは好んで生息し、そこで繁殖も行っているようである。実際、自分が訪れた際には幼虫の姿も数多く観察出来た。幼虫は日本産のタイコウチ同様に泥を体に纏い保護色としており、一見しただけでは気付きにくい。雌雄2匹が寄り添っている姿もみかけた。

タイ東北部チャヤプーンのインドシナオオタイコウチの生息場所。タイではこうした丘陵地の流れのある細流などに生息しており、平地の水田などでは見かけない。

卵は水辺の浅い場所に産み付けられ、特徴的な呼吸管の形状からすぐ分かる。幼虫、成虫共に採集すると脚を伸ばした形になり死んだフリを行う。本当に死んだ場合は、この様な形状にはならないのですぐ分かる。生息密度は同じタイ東北部に生息するタイワンタイコウチに比べて非常に低い。これは生息場所の生態系にも関係あると思われる。平地の水田などに比べると、明らかに餌となる魚や生物が少ないのである。

飼育に関しては、日本産のタイコウチと基本的には変わらない。呼吸管を水面に出すための足場となる水草や流木などを水槽内に配置するシンプルなセットで大丈夫だ。餌はメダカなどの小さな小魚や小エビを与える。雌雄の判別はやや難しいが、腹側の亜生殖板の形態の違いを見れば可能である。飼育下でも水苔やオアシスなどに卵を産み、繁殖も難しくない。流通量は多くないので、飼育したい方は見かけた際に迷わず購入する事をお勧めする。

日本産のエサキタイコウチに近縁と思われるタイ産のミニタイコウチ。インドシナオオタイコウチが最大のタイコウチなら、こちらは最小のタイコウチと言えるだろう。指と比較するとその大きさが良くわかる。

最後に余談であるが、最大のタイコウチの他に最小と思われるタイコウチも同じくタイの東北部に生息している。インドシナオオタイコウチの他、ゲンゴロウなど他の水生昆虫も撮影したかったので、タイ東北部で採集をしていたところ、非常に小型のタイコウチに巡り会った。この小型のタイコウチは与那国島に生息する日本最小のタイコウチであるエサキタイコウチに近縁な種類かと思われる。東南アジアにはこれに似た小型のタイコウチは広く分布しており、自分自身でもマレーシアやラオスで以前観察している。ミニタイコウチはサイズは似ているが、呼吸管の長さや前脚の形状に違いが見られるため、複数の種類が存在しているようである。

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