山崎浩二のSmall Beauty World

第26回「マングローブの巨大トビハゼ」

ジャイアント・マッドスキッパーの大型個体。対象物がないとこの巨大さ加減を伝えにくいのであるが、可愛いというよりは凄みを感じさせられるサイズである。

20年程昔だろうか、東南アジアのフィールドに魅力を感じて通い始めた頃である。バンコクで熱帯魚のシッパーを営んでいるK氏からはいつもネタを提供して頂いていた。ある時話しをしていたら、そのK氏が真面目な顔をしてタイには30cmになる巨大なトビハゼが生息していて、バンコクの近くでその姿が見られるという興味深い話しをしてくれた。トビハゼというと日本でも沖縄のマングローブ域でも普通にミナミトビハゼの姿が見られる。しかし、そのサイズは7~8cmといったところである。まさか本当にそんな巨大なトビハゼが実際にいるとは信じられずに、最初はその話しを冗談かと思っていた。
なかなか信用してくれない自分を納得させるため、K氏は今度自分がタイを訪れた際にはその生息場所を案内すると約束してくれた。ほどなくしてタイを訪れる機会ができ、K氏に案内されてその巨大トビハゼを見に行く事になった。

マングローブの林の間にこのような溜まりを作ってテリトリーとしている。この水の下に巣穴があり、干潮時には水面近くで活動し、満潮時には巣穴の中にいるようである。
ジャイアント・マッドスキッパーは他のトビハゼ同様に愛嬌のある表情をしている。のんびりしているようで、人影などを察知すると巣穴へ素早く潜るかジャンプして逃げてしまう。

生息場所はバンコクの郊外、バンプーという場所である。ここはバンコクでは観光の名所として有名はクロコダイル・ファームのすぐ近くである。バンコクからは車で1時間程という近場である。まだ半信半疑である自分は、こんな都市の近くにそんな珍しい生物の生息場所?と考えていた。案内された場所はあるお寺の近く。このお寺から海側には、ここで修行しているお坊さん達が住んでいる区画がある。マングローブの林の中にコンクリートで縦横に道が造られ、そこにポツリポツリとお坊さん達の家が建てられている。人が生活していれば、当然ゴミも出て生活感が漂っている。その場所はお世辞にも綺麗な自然が残っているとは言い難く、増々こんな場所に巨大トビハゼがいるのか?という気分になったものである。

このジャイアント・マッドスキッパーの生息場所のマングローブ域にはこのようにコンクリートで縦横に通路が造られている。最近では野良犬が増えていて、たまに通る際に怖い事も多い。この野良犬が吠えてうるさいためにミズオオトカゲの生息数が減少したようだ。

訪れた時はちょうど干潮の時間帯であった。マングローブの木々の下には泥底が現れ、そこには色とりどりの無数のシオマネキが活動していた。この場所には巨大トビハゼだけではなく、普通サイズのトビハゼも生息している。また足下近くでもムツゴロウの姿も数多く見られる。そんな生き物にカメラを向けようとしたその時である、突然バシャバシャという激しい水の音。音のした方向を見ると、何やら生き物が跳ねている。それが初めての巨大トビハゼとの出会いであった。

グレーの身体に黒い縦帯が走る姿は紛れもなくトビハゼである。しかし、そのサイズが尋常ではない。小型の個体でも10cmオーバー、大型の個体では事前情報の通り全長30cmはある。意外と個体数も多く、人家近くの水路にはかなりの密度で生息している。ただし、テリトリー意識が強く、他の個体が近付くとすぐに追いかけっこが始まる。日本のトビハゼのように可愛くピョコピョコとしたものでなく、バシャバシャと激しいものだ。泥に巣穴を掘って生息しており、巣の近辺にいる個体が多い。ちょっとアップで撮影しようと近付くと、すぐに巣穴へ潜ってしまう。警戒心は結構強いようだ. この巨大トビハゼは英名でジャイアント・マッドスキッパーと呼ばれ、学名は、Periophthamodon schlosseri と言う。タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシアのマングローブ域に広く生息しているようだ。自然下では主にカニなどの甲殻類を補食しているが、同じ場所に生息している小型のトビハゼを食べる事もあるらしい。草食のムツゴロウと違い、結構獰猛な肉食性の魚である。

ジャイアント・マッドスキッパーの小型個体。体も細身で大型個体程の貫禄はない。何年かかってMAXサイズにまで成長するのであろう?

実際に自分の眼で巨大トビハゼを目にしたのも驚きなのだが、この場所ではもうひとつの驚きがあった。この巨大トビハゼの姿をカメラに納めようと狭い通路に寝そべりながら撮影をしていると、後の方で何か生き物の気配。見ると1m以上あろうかというミズオオトカゲが水の中から顔を出したのである。それも1匹ではない。気が付くと自分の近くだけで4匹はいる。人間を怖がる様子もなく、自らコンクリートの橋に上がりノソノソ歩いて対岸へと渡って行く。彼らに気が付いてからはおちおち撮影に集中できず、背後が気になって仕方なかった。

同じ生息場所にはミズオオトカゲの姿も多かった。昔はここに来れば必ず姿を見れたものだが、最近は運が良くないとその姿が見られなくなった。たぶん野良犬が増えた事が一番の原因だろう。

ここに住んでいるお坊さん達に話しを聞くと、この場所では殺生は禁止されている事から生き物があまり人間を怖がらずに生活しているのだそうだ。ミズオオトカゲはこのマングローブの林の上に巣を作る水鳥のヒナが落ちて来るのを餌としているらしい。しかし、それだけでは足りないようで、あるとき子犬を数匹で奪い合って捕食している姿を見かけた事もある。

巨大トビハゼと巨大オオトカゲを同時に見る事ができるこの場所にいると、次は恐竜でも出現して来そうな気分になってしまう。こんな場所がバンコクの近くに残っているというのは非常に興味深い。ただし、最近の環境破壊はこの場所にも及んでいる。自分が感じた驚きを他の人々にも経験してもらいたく、知人などをこの場所には案内する機会も多いのだが、最近は巨大トビハゼのサイズも小型化し、生息数も減っているようだ。10年程前は訪れれば必ず見る事ができたミズオオトカゲも最近では見られない事も多い。ミズオオトカゲの減少は天敵である野良犬が増えたためのようであるが、マングローブに生息している野鳥が減ったのも要因であろう。今年も一度訪れたのだが、マングローブの中に人が大きく水路を掘ってしまっていた。そのため潮の流れが変わり、巨大トビハゼも巣穴を作りにくくなったようで、明らかに生息数が減っていた。人と生き物が絶妙なバランスで共存していた昔が懐かしく思われる。

他のトビハゼ同様、あまり水中にいるのは好まないようである。水面をジャンプして、適当な場所があるとこのように顔を出してのんびりしている。

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