水作株式会社

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山崎浩二のSmall Beauty World

第106回 タイ産ホウネンエビ

シリントーン・フェアリーシュリンプのペア。右側がオスで左側がメスである。日本のホウネンエビ同様に腹部を上にしている逆さ泳ぎスタイルである。白い飼育容器よりも黒い飼育容器に入れた方がブルーは濃く感じられる。

ベタや小型熱帯魚の他、淡水産のエビやカニ等の甲殻類にも非常に興味があり、若い頃から採集や観察、撮影等を行なって来た。
日本でも田植えの時期にだけ水田に発生するカブトエビやホウネンエビ、カイエビ等には小学生の頃から強い興味があった。
そんなであったため、タイに通い始めてタイにもホウネンエビが生息していることを知ると、実際に見てみたい欲求に駆られたものである。
20年ほど前のバンコクのチャトチャックでは、ホウネンエビの成体を魚の餌に使うために販売されており、タイ産のホウネンエビをこの目で見ると言う願いは呆気なく叶えられた。
遠い昔の事なので記憶が曖昧だったので記録をチェックすると、2006年、某アクアリウムメーカーの知り合いが、ホウネンエビのファームを見学したいと連絡して来た。

タイランドエンシス・フェアリーシュリンプのオス個体。尾部の辺りが蛍光オレンジに色付き美しい。第二触覚は繁殖期にメスと連結する際の把握器として大きく発達しているので、外見での雌雄の判別は容易である。
タイランドエンシス・フェアリーシュリンプのメス個体。オス個体よりもやや小型な印象である。腹部後方に休眠卵を抱える保育嚢があるので、これに注目すれば雌雄判別は容易である。

アクアリウム関係の情報集めならお手のもの、すぐにタイ中部スパンブリにホウネンエビのファームが有る事が分かり、そこを訪問する事になった。
偶然にもそのホウネンエビのファームのオーナーはベタのブリーダーでもあり、その当時のコンテストで優勝するレベルの非常に美しいゴールドのプラカットを育成していた。
今回はホウネンエビの話なので、ベタの話をすると長くなってしまうので、ここまでにしておこう。
このホウネンエビのファームでは、オレンジ色とブルーの2色のホウネンエビを殖やしており、これらは色彩変異ではなく別種である。
オレンジ色の方は、学名をBrachinella thailandensisと言い、あえて日本風に呼ぶとタイランドエンシス・フェアリーシュリンプである。
ホウネンエビは英名ではフェアリーシュリンプと呼ばれている。
乾燥して何もなかった場所に水が溜まると、どこからともなく現れるその生態は正に妖精と呼ぶに相応しいし、その姿もどことなく妖精を彷彿とさせる。
別なブルーの種類は、学名Streptocephalus sirindhornaeと言い、こちらは日本風に呼ぶとシリントーン・フェアリーシュリンプである。
この学名はタイのシリントーン王女に因んで献名されている。

タイランドエンシス・フェアリーシュリンプの2匹のオス個体。写真を見てお分かりのように体色には個体差が見られる。これは日本産のホウネンエビも同様で、飼育環境によりグリーンが強かったりの個体差がある。
シリントーン・フェアリーシュリンプのオス個体。淡いブルーの色彩が美しく、オレンジ色の尾との対比がよく目立つ。他のホウネンエビ同様、オスの第二触角は把握器として大きく発達している。

タイではホウネンエビに関する書籍も出版されており、当然自分の蔵書にもなっているのだが、入手したのがかなり昔なため、本の山の中に埋もれてしまっており現在では捜索不可能な状況である。
因みにタイにはもう1種類ホウネンエビが生息しており、こちらは学名Streptocephalus siamensis と言い、写真で見たところ色彩はシリントーン・フェアリーシュリンプに似た淡いブルーであるが、それよりもやや小型なのだそうである。
他の2種類との決定的な相違は休眠卵の形状で、他の2種類が球状であるのに対し、シアメンシス・フェアリーシュリンプの休眠卵はピラミッド状の三角錐なのである。
生息場所は3種類共にタイの東北部となっているので、種類の同定の際には休眠卵の形状をチェックするのが最も容易である。
タイランドエンシス・フェアリーシュリンプとシアメンシス・フェアリーシュリンプはタイ固有の種類であるが、シリントーン・フェアリーシュリンプはタイ以外にもラオスとミャンマーでも生息の記録があるそうだ。

シリントーン・フェアリーシュリンプのメス個体。体の後方に休眠卵を抱える保育嚢を持っているので雌雄の判別は容易である。オス個体に比べメス個体の方が体のブルーは薄く感じられる。

さて、ホウネンエビの種類も解説が長くなってしまったが、ホウネンエビのファームについて書いて行こう。
このファームでは、前述の2種類のホウネンエビの休眠卵を生産しているとの事だった。
屋外の樹脂製の容器にグリーンウォーターが貼られ、その中でホウネンエビが泳いでいた。
イメージで言うと、現在のメダカのブリーダーのようなスタイルである。
水底に産み落とされた休眠卵を集めて乾燥させ、それを販売しているそうなのだ。
かなり繊細な作業が必要な事から、休眠卵の価格はそこそこ高めであった記憶がある。
小さなビニール袋にパッキングされた2種類の休眠卵を購入して日本まで持ち帰った。
数年後にこの休眠卵を孵化させようと試みたが、既に孵化能力がなくなっていたのか全く孵化しなかったのは残念であった。
常温で保存していたのが悪かったようで、アルテミア同様に冷蔵庫で保存した方が孵化率は低下しないと後に学習した。
そのスパンブリのホウネンエビのファームの方とは、残念ながら移転後に連絡が取れなくなってしまった。

白バックで撮影したシリントーン・フェアリーシュリンプのオス個体。多きく発達した第二触覚の把握器がよく目立つ。体の中央に走っているのは消化管で、消化された藻類などの餌は赤い尾の間から排泄される。
白バックで撮影したシリントーン・フェアリーシュリンプのメス個体。オス個体よりもややブルーは薄い。体側後方の保育嚢の辺りは濃いブルーとなっている。大きな複眼の間に小さな単眼があるのが確認出来る。

タイでホウネンエビの生産をしている業者は複数あるようで、最近ではチャトチャックでも小さなガラス容器に入った休眠卵や薬品のカプセルのような容器に入った休眠卵が販売されているので、入手は難しくない。
日本国内でもネットで調べれば通信販売を行なっている業者もあるので、興味のある方は取り寄せてみても面白いだろう。
このガラス容器に入ったホウネンエビの休眠卵を5年程前に購入し、自宅の冷蔵庫に保管していた。
購入当初に試しで孵化させてみたところ、ホウネンエビの卵にタマミジンコの休眠卵も混ざっていたようで、思いがけずタマミジンコをゲットする事が出来た。
この夏遊びでメダカを殖やしており、その餌にタマミジンコを殖やそうと思い立った。
5年程前の卵だが、まだ孵化能力があるかと思い、冷蔵庫に保管してあった休眠卵をダメ元で水に浸けてみた。
約24時間で卵は孵化したが、ホウネンエビばかりでタマミジンコが全く孵化して来ない。
どうもホウネンエビの休眠卵よりもタマミジンコの休眠卵の方が寿命が短く、すでに孵化する能力がなくなってしまっているようだった。
3回ほど試みたが、タマミジンコが孵化して来ることはなかった。
この休眠卵から孵化するのはタイランドエンシス・フェアリーシュリンプが90%で、10%はシリントーン・フェアリーシュリンプである。
以前はタイランドエンシス・フェアリーシュリンプだけかと思っていたのだが、5年ぶりに休眠卵を孵化させてみたところ、この休眠卵に2種類が混ざっている事が判った。
これは嬉しい誤算であった。

タイランドエンシス・フェアリーシュリンプのメスの保育嚢。内部に産み落とされる寸前の休眠卵の様子が確認出来る。丸い形に凹凸がある特徴的な卵の形状により他のホウネンエビとは区別出来る。休眠卵は一度乾燥した後に再度水に浸かることにより孵化する。

淡いブルーの体色が美しいシリントーン・フェアリーシュリンプは、タイランドエンシス・フェアリーシュリンプよりも成長が遅く、その分寿命は2ヶ月以上ある。
タイランドエンシス・フェアリーシュリンプは孵化して2週間程で成体になり産卵を始め、寿命は1ヶ月程である。
両種共に飼育方法は同じで、餌はグリーンウォーターを与えるのが一番容易だろう。
クロレラの粉末やドライイースト等も餌として使える。
飼育はプラケースなどを使用し、ベアタンクで行うと後で卵を集めるのに楽である。
水底に産み落とされた休眠卵はゴミなどと一緒にコーヒーフィルター等で濾し取り、乾燥させて保存しておこう。
休眠卵は水を注げば、また孵化して飼育を楽しめる事だろう。
ホウネンエビは動きも緩やかで、いわゆる癒し系の生物と言える。
コツさえ掴めば飼育も難しくないので、保温のいらない日本の夏場は最適である。
この猛暑の日本の夏、外の水槽で育成しているがぬるくなった水の中で元気に生育している。

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