
コイベタの進化系でキャンディが世にお目見えしたさのは2018年の春頃だった。
このコラムの第52回でこのキャンディを紹介している。
ただし当時はまだキャンディと言う呼び名よりもニモと言う名称の方がよく使われていたので、そのコラムでもニモの名称で紹介している。
コラム内でも解説しているが、当時のキャンディはオレンジ色が基調色となっており、流行りのディズニー映画の主人公であるカクレクマノミのニモを彷彿とさせる事からその名称が使われた。
その後オレンジ色を基調とした色彩から様々なカラーが派生して来て、そのビビッドな色彩からキャンディのようにカラフルだと言う事でキャンディという通称名が普及した。
とは言え、今でもニモという名称が使われる事もあるし、コイベタからの進化系なので、いまだにコイと呼ぶブリーダーもいる。
このキャンディ、非常にその形質は安定しており、繁殖も容易だった事から、すぐにタイのベタシーンに広まり、プラカット以外にもハーフムーン等様々なタイプへと派生して行った。
見た目のインパクトが強いので日本でもすぐに人気の品種となったのだが、近年ではそのインパクトの強さが逆に飽きられてしまう原因となり、残念ながら人気はやや低迷しているようだ。
自分自身も数多くのキャンディを撮影して来た為、流石によっぽど変わったパターンや美しい色彩でもない限りキャンディを撮影のモデルに選ぶ事はなくなっていた。
2025年の春に恒例のタイ取材を行った際にあるブリーダーのところを訪れた。
もう10年以上付き合いのあるブリーダーなので、どこら辺に何がいるとか勝手知ったるファームで、非常に居心地が良くて訪タイ時数回は訪問させて貰っている。
今回、そのファームでちょっと気になる魚を見つけてしまった。
何気ない場所にさりげなく置かれていたので、危うく見逃してしまいそうになったが、一見するとキャンディのようだが、やや雰囲気が異なっている。
ファームの主人にこの魚は?と尋ねると、見つかってしまったか!とでも言うかのような悪戯っぽい反応が返って来た。
具体的にどこがどう異なっているとは言い難い違いなのだが、従来のキャンディとは色彩が異なっているのである。
体系的にも通常のキャンディよりも尾ビレが大きくプロポーションも見事である。
この大きな尾ビレの形質は、タイのプラカットよりもインドネシアから導入された系統で顕著であったので、どこかでその血筋が導入されたのかもしれない。
何か新しい品種名でもあるのか尋ねたのだが、特に名前はないそうである。
それでは従来のキャンディとの差別化が難しいので、ここでは便宜的にニュー・キャンディと呼ぶ事にしよう。

どのように作出したのか詳しく聞こうとしたのだが、そこはブリーダーにとって企業秘密なのか核心は聞けなかったが、キャンディにマスタードガスを交配したような話は聞く事が出来た。
このようなカラフルなキャンディは、以前5カラーや7カラーの名称で破格な値段で販売されていた記憶がある。
ただし、似てはいるがその際の魚とは異なる印象だ。
ファームの主人曰く、これと同じようなプラカットは近くにある市場でかなり高額な小売価格で販売されていると言う話である。
複数の個体を見たところ、基調色はオレンジ色ではなく黄色や青、赤となっているため従来のキャンディとは雰囲気が異なっている。
キャンディに飽きた目には非常に新鮮で魅力的に見えるため、モデルも兼ねて日本に帰国する際にちょっとまとめて持ち帰りたかったのだが、既に売れてしまったのか少数しか入手出来なかった。

種親のゾーンには次世代用の魚が複数キープしてあったので、秋に再度訪問する頃には若い個体が入手できるだろう。
余計なお世話かもしれないが、日本人含めベタのマニアはこの魚の色彩を好むだろうから量産しておくようにお勧めしておいた。
この魚も他のプラカット同様に成長段階において色彩は変化する。
タイに滞在中に撮影したのと同じ個体を日本に帰国して52日後に再度撮影を行ったので、その成長に連れての色彩の変化もご覧頂きたい。