山崎浩二のSmall Beauty World

第14回「ベタ・シャムオリエンタリス」

オス同士で闘争するベタ・シャムオリエンタリス。体の地色は黒に近くなり、尾びれのエッジ、尻びれの後端は美しい赤に染まる。この色彩はスプレンデンスよりもベタ・インベリスに似ている。

ベタ属の中でも比較的種類数の少ないスプレンデンス・グループに昨年新たに2種類の新種が加わった。1種類は前回のこのコラムで紹介したベタ・マハチャイエンシスBetta mahachaiensis、もう1種類はベタ・シャムオリエンタリスBetta siamorientalisである。今回のコラムではこの最も新しいベタ・シャムオリエンタリスの詳細を報告しよう。

チャチェンサオのバンクラー地区のベタ・シャムオリエンタリスの生息場所。岸際の草の間が彼らの生息場所で、オープンエリアには見られない。同所には小型のエビも多く、彼らの良い餌となっているのであろう。

本種の記載論文はVertebrate Zoolog に2012年12月に発表された。記載者はベタ・マハチャイエンシスを記載したタイのマヒドン大学のChanon氏、Bhinyo氏、Pintip氏らのグループである。どうやらマハチャイエンシスを記載するにあたり他のスプレンデンス・グループの標本を整理しているうちに本種が新種である事に辿り着いたようだ。分布はタイ東部のChachoengsao、Chon Buri、Sa Kaeo 、Prachin Buriで、一部タイに隣接するカンボジア領にも分布しているようだ。本種の学名の種小名、siamはもちろんタイの古い国名、orientalisは東部という意味があり、タイ東部に分布する事を意味している。

採集したベタ・シャムオリエンタリス。1~2cmの幼魚が中心であるが、2.5cm程ですでにヒレも伸長し、色彩も現れている個体がいた。飼い込んでみないとはっきりしないが、どうやら本種はかなり小型な種類のようだ。
闘争時に色彩が黒化し始めたオス個体。鰓蓋には独特のメラニン・パターンが現れる。スプレンデンスのように顕著な2本ラインは本種では見られない。

本種の記載論文は昨年の12月に懇意にしているスイスの魚類学者のコテラット博士からメールで送られて来た。ざっと論文を見た感じでは、別種とするにはやや無理があるかなという印象であった。論文に掲載されている写真を見ても、スプレンデンスの地域変異ぐらいにしか見えなかった。本種の生息場所の中心であるタイ東部のチャチェンサオには、以前ベタの採集に行った事があるのだが、その際には幼魚だけしか採集できなかったので、本種の確認はできていなかった。その生息場所付近の道路には数多くの露天のベタ屋が並び、そこでは現地のベタに他の種類をかけ合わせたハイブリッドが売られていた事もあり、ちょっと興味を失っていたのも正直なところである。

とはいえ、新種として記載されたからにはそれなりの根拠もあるだろうし、研究もされているはずである。次回タイに行く機会があったらぜひ自分の手で採集して撮影したいと考えていた。今回やっとその機会を得て、採集に行ける事となった。まずは記載論文のホロタイプの採集場所を調べたところ、チャチャエンサオのバンクラーという場所である事が判り、その場所を目指した。道路の標識や地元に人に聞きながらその場所を探すと、以前ベタを採集した見覚えのある場所に辿り着いた。その場所が目指していた生息場所そのものであった。数年前にちゃんと幼魚を育てて婚姻色を確認していればと、ちょっと悔やまれた。この場所ならどこでベタが採れるかもう情報はある。網を入れるとほどなくして1匹の幼魚が入って来た。やはり他のベタ同様に岸寄りの植物の草陰に隠れているようだ。

ベタ・シャムオリエンタリスのメス個体。この個体は全長3cm程だが、すでに卵巣が発達し始めている。餌を十分に与えれば、1ヶ月後には繁殖も可能だろう。

足で草を蹴りながらの採集を続けると、やっと婚姻色を現したオスが採れた。けれども予想以上に小さい。他のベタではこのサイズでは雌雄の判別も不可能なぐらいの大きさである。全長2.5cmぐらいですでに発色しており、一番大型の個体で全長3cm程であった。今までに採集したスプレンデンス・グループのベタの中では最も小型である。最大サイズがどれぐらいのかは、これから飼い込んで様子をみたい。撮影用のオスが4匹程確保できたので、大切に1匹ずつパッキングして持ち帰った。この生息場所では本種の他にクローキング・グーラミィ、ボララス・ウロフタルモイデス、クラリアス、アーモンド・スネークヘッドなどの魚が見られた。

美しい色彩を現しオス同士でフィンスプレッディングするベタ・シャムオリエンタリス。色彩は非常にインベリスに酷似し、ブラック・インベリスと称されるのも頷けるところである。

採集したばかりの本種はすでに発色しているものの、採集のショックで色も褪せて同定できるような状態ではない。ホテルの部屋に飼育用のビンを並べ個別飼育を始めた。数日すると傷付いていたヒレも治り、隣のビンのオスを見せるとフィンスプレッディングするようになった。観察していると確かに本種はブラック・インベリスとも呼ばれるように体色はかなり黒化する。尾びれのエッジの赤、尻びれ後端の赤はベタ・インベリスに酷似している。インベリスと決定的に異なるのは鰓蓋の色彩である。本種では全くブルーが乗らず、ほぼ黒である。状態によって薄く赤いラインが2本現れるが、スプレンデンス程顕著ではない。このような特徴を自分の眼で観察すると、初めて本種が独立した種類である事を認められる。しばらく飼い込み、身体の傷やヒレの傷が治り水槽に慣れた段階で撮影である。オス2匹を同じ水槽に入れるとすぐに闘争を始めた。薄かった体色も徐々に黒化し、ブルーも鮮やかになってきた。夢中になってシャッターを切る。写真にすると特徴はより顕著になる。間違いなく本種はスプレンデンスともインベリスとも異なっている。ただし、メスはこれと言った特徴がないため、インベリスなどと混ぜてしまったら判別不可能であろう。

10数年前にベトナムから輸入されたベタ属の一種。採集場所などの詳細は不明だが、インベリスとスプレンデンスの両方の特徴を持つ種類としてマニアの間では話題となった。分布域が距離的に離れ過ぎているので、本種とは別種であろう。

本種と良く似た特徴を持つベタが以前観賞魚ルートでベトナムから輸入された事がある。採集場所などの詳細は不明なのだが、分布域を考えると距離が離れ過ぎていて同種とは考えにくい。今回、参考までにこのベトナム産のベタの一種も写真を掲載しておこう。以前このコラムで紹介したカンボジアのシアヌークビルのベタもどうやら新種のようである。このように今まで静かであったスプレンデンス・グループのベタ周辺はちょっと賑わい始めている。分布域の広いスマラグディナも今後ある産地の魚は別種として分けようという動きもあるようだ。また何か動きがあったらこのコラムで紹介する事にしよう。

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