今まで数多くのベタを紹介して来たこのコラムであるが、まだ一度も取り上げていない品種がある。それが今回紹介するチャーン・ベタである。
本種はタイで作出された品種で、その大きな胸ビレが特徴である。現地ではフー(耳)チャーン(象)あるいはチャーンと呼ばれている。
日本では商品名としてデ○ズニーのキャラクターであるダンボが使わている事が多いようだが、商標の問題等がありそうなので、自分はこの名前は使用しない。通称名がある場合、出来る限り作出された国で使われているオリジナルの名称を使いたい。
この個性的なベタを初めて見たのは、確か2011年ごろだったと記憶している。
撮影した写真のフォルダを見てみると、2011年の秋頃に初めて撮影をしている。
バンコクのサンデーマーケットでこの品種を初めて見た時、このような変わった視点で改良を行うとは!と驚いたものである。
チャーン・ベタが登場する以前から、ラベンダー系やマスタードガス系のベタの中には胸ビレが白くなり目立つ個体もいたので、そこが面白いと気付いたブリーダーがいたのであろう。
後にグッピーでも同様に胸ビレの大きい品種が作出されたのも驚きであった。
初期のチャーン・ベタはラベンダーやマスタードガス等色彩的にはバラエティが乏しかった印象が強く、その状況は長らく変わらなかった。またリリースされた初期は、その胸ビレも左右で大きさが違ったり、各ヒレのエッジがガタついている個体も多く、撮影のモデルを選ぶのは大変難しかった。たぶん胸ビレを大きくする遺伝子と他のヒレのエッジがガタガタになってしまう遺伝子が連携しているのかもしれない。
現在でもチャーン・ベタをセレクトする際には各ヒレのチェックは欠かせない。
せっかく面白い色彩の個体を見つけても、各ヒレのエッジに難がある場合も多く、モデル選びの難易度はベタの中でも高い。
最近では色彩のバラエティもかなり増えてきた印象はあるが、それでもまだ他の品種のような多彩さには欠ける短所がある。
初期のチャーン・ベタは、胸ビレが通常の倍ぐらいの大きさであったが、この点に関しては改良が進み、現在では尾ビレよりも大きな見事な胸ビレを持った魚を見る事も多い。
本品種の特徴であるこの胸ビレだが、飼育の際に注意して欲しい点がある。他のヒレと異なり、チャーン・ベタの胸ビレは裂けたり傷付いたりした場合、再生しにくいのである。
プラカットの場合、尾ビレや尻ビレが多少裂けたり傷付いたりしても、数日で元通りに治るのだが、チャーン・ベタの胸ビレはこうした治癒力が乏しいのか、傷付いたままになってしまう事が多い。
そのため網で掬う際などにも、出来るだけ胸ビレにはダメージを与えないように優しく扱いたい。これは自分達カメラマンの問題なのだが、チャーン・ベタの撮影は大変難しく、普通のプラカットの10倍ぐらいの時間を要してしまう。特徴であるヒラヒラしている胸ビレが綺麗な形で写らなかったり、ストロボ光の影としてボディに映り込んだり、他のベタよりも大変なのである。モデル選びも難しい上に、撮影も大変なので、無意識で被写体として避けていた事もあり、自分のベタの写真のストックの中ではダントツに数が少ない。そのため最近は意識して良い個体を見つけた際は撮影するように努めている。
最初はプラカットだけであったチャーン・ベタであるが、すぐにハーフムーンも現れ、各ヒレが大きいハーフムーン・チャーンは人気が高い。水槽に入っているチャーンベタの動きもコミカルで可愛いものだが、以前ベタのブリーダーのところでコンクリートの池に多数の幼魚が泳いでいるのを上から見た際には、多数の若い個体の白い胸ビレがピロピロと動いている様子は物凄く印象的であった。歴史は浅いものの、すっかりとベタの品種としては認知されたチャーン・ベタ、今後はもっと色彩バラエティが増えると更に人気が高まるであろう。