水作株式会社

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山崎浩二のSmall Beauty World

第72回「トリカラー・ベールテール」

2020年7月 公開

2匹で闘争するトリカラー・ベールテールのオス個体。やはりベールテールはこの闘争時のフォルムが最も魅力的である。今回リリースされたのは、まだ若い個体ばかりであったが、成長すればさらに美しくなるであろう。

ある時、期待もせずにサンデーマーケットの巡回ルートのお店を覗いた際に、一番目立つ位置に目新しい魚を見つけてしまった。
それはタイでは、パカット・チンと呼ばれるベールテールのベタであった。
日本では、トラディショナル・ベタを略してトラベタと称される事も多いが、タイでその名前を使っても誰も理解しないであろう。
タイでは、ベタの中では一番プラカットの人気が高いため、専門店の品揃えもそれに準じており、ベタ専門店の八割はプラカット専門店のようなものである。
個人的にもプラカットが好みなため、どうしても変わった色彩の個体がいると購入してしまい、その結果写真のストックもプラカットに偏りがちとなってしまう。
昨年、自分のベタ写真の集大成とも言える書籍を製作したのは、このコラムの読者であればご存知であろう。
プラカットの写真は捨てる程あるのだが、いくつかの品種では写真の不足を感じてしまった。
その最たるものが、ベールテールのベタなのである。
これにはいくつかの理由がある。

ベール状の尾ビレをたなびかせるように闘争する様子が最高である。それだけにこの尾ビレの形状は非常に重要で、個体選びの際はヒレが裂けたり傷ついていないものを選ぶ事が大切である。
どの個体もほぼ同じような色彩であるが、ブルーのボディ部分への滲み方や尾ビレへの入り方に若干の個体差が見られる。写真の個体は、頭部の後方に入るブルーの色彩が、良いアクセントになっている。

ひとつは、ベールテールのベタはもう過去の品種扱いで、あまり新しい色彩の新品種が見られなかった事である。
ソリッドレッドやソリッドブルーのベールテールは、長年初心者用のベタとして、毎週のように数万匹が輸出されて来たが、価格的にも安価な事から、新たな新品種を手掛けようとしなかったのである。
それが、ここ数年で状況はかなり変わって来ており、ベールテールのベタを見直すと言うのか、新たな品種の登場により復権を果たして来たのである。
ベタ王国のタイでは、年に数回かなり大規模なベタの品評会が開催されている。
こうしたコンテストの際、カテゴリー別に審査されるが、昔から必ずベールテールのカテゴリーもあったが、以前はそこにはあまり魅力的な個体は見られなかった。
ところが、ここ数年は、かなり変わった色彩のベールテールが出品されるようになり、プラカットよりも魅力的な個体がたくさん出品されている事さえあった。
この状況は、古くからのベタ好きとしては嬉しいのであるが、弊害も生じている。

色彩に関しては、ほぼ似たような印象の個体ばかりだが、写真の個体では尾ビレに入る赤い色彩の面積が広く、より派手な印象を受ける。

ご存じのように、個体のグレードによりベタの販売価格は大きく変わってくるのだが、
ショップで見かけるベールテールの魅力的な個体の価格が高騰したのである。
この傾向は、コイベタのベールテールが登場した辺りから見られるようになった。
最近では、ニモのベールテールのハイグレードの個体が、日本円で一万円以上と言う時期もあった。
2020年の春の段階でも、ニモのベールテールのハイグレードな個体には、手を出せない値段が付いている。
このベールテール・ベタの値段の高騰と言うのが、写真のストックが不足しているふたつめの理由となっている。
さすがに撮影モデルに湯水のようにお金を使える金持ちカメラマンではないので……。

この品種のボデイ部分のブラックが、赤が濃くなったものだと言うのが分かりやすい個体である。このボデイ部分のブラックは、興奮状態による部分も大きく、闘争時により興奮すると黒味を増す傾向がある。
この個体では、尾ビレの上部にもブルーが回り込んで、ダブルソード状になっている。背ビレ基部のボデイ部分のブルーの滲み具合も良い感じである。

さて、話を冒頭に戻そう。
今回、某ショップで新入荷で、まだ袋のまま水槽に浮かべられているベールテールのベタを見つけた。
約20匹程いるが、どの個体も色彩はほぼ同じでかなり固定率は高そうである。
黒地にブルーのヒレ、尾ビレの基部のレッドと、配色のバランスも最高である。
さぞかし、良い値段がするのだろうとビビりながら、値段を訪ねると意外な程手頃な価格が返って来た。
これなら数匹まとめてモデルにする事も可能である。
とは言え、そこそこハイグレードなプラカットを買えるぐらいの値段なのであるが……。
値段も大事だが、この新品種の名前も聞いておかなければと思い尋ねると、ブルーバックスターだと言う。
見た目そのままじゃん!と言う安易なネーミングが返って来た。
そのままこの名前を使おうか迷ったが、ブラック、ブルー、レッドの三色が美しい事から、このコラムではトリカラー・ベールテールの名称で紹介させて頂く。
これだけ各個体似たような色彩なのは、新品種としては珍しい。
大抵出始めは、色彩や形態にバラつきがあるのが普通なのだ。

ここまでしっかりと固定されるまで、どこでも見かけなかったので、ブリーダーはかなり拘りのある方なのだろう。
メスの個体も見てみたくて、尋ねたのだが、当然のようにまだリリースはされていないようである。
これは、ベタの新品種では普通の事で、そのうちに出回るようになるだろう。

それにしてもこのベタの色彩は、見事である。
背ビレ、尻ビレは鮮やかなブルーで、その基部のボディにまでブルーが滲むように不規則に入り込んでいる。
このブルーは、尾びれの下部にソード状に伸びており、これが赤い尾ビレと良いアクセントになっている。
尾ビレに入るレッドは、やや個体差が大きいようである。
ボデイ部分のブラックは、真っ黒ではなく、赤が濃くなり赤茶色を通り越して黒っぽく見えているようだ。
これには、撮影してみて初めて気が付いた。

この写真の個体では、尾ビレ下部に入るブルーの幅も広く、中央部分に入るイレギュラーなブルーのラインも良いアクセントになっている。背ビレと尻ビレ後端にやや癖があるのが、マイナスポイントだが、全体的に美しい個体である。

これだけの固定率の高い新品種が、そこそこ手頃な価格でリリースされると言うことは、かなりの数が生産されているのかと想像するのが普通であろう。
しかし、店主が言うには、このベタはファームでももう売り切れなので、この入荷が最後でしばらくは入荷しないと言う話であった。
この手の話には、商売上のテクニックも多いため、信用は出来ないところがある。
とは言え、この素晴らしい新品種が、もっとリリースされ、手頃な価格でマニアの皆さんのところに届く事を願いたい。
そして、ベールテール・ベタの魅力を改めて多くの方に理解して頂きたい。

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