水作株式会社

山崎浩二のSmall Beauty World

第63回「ベタ・スプレンデンス・ベンジャロン 」

オス同士で闘争するスプレンデンス・ベンジャロン。他のベタ同様、闘争時に体色は最も美しく変化する。全体に赤みを帯びた体色、スペードテールの他にも伸長した各ヒレのフォルムも魅力的である。

今回も暑い中チャトチャックのベタ通りを定期チェックしていた。以前からも自分の仕事は、この界隈のベタ屋の間では理解されていたのだが、Betta2020を出版してからより理解されたようで、新しい魚が入ると以前よりも声がかかることが多くなった。
嬉しい限りである。
今回は一番にワイルドを中心に品揃えしているお店から声がかかった。例によって、ガラス容器の仕切りを外すと、そこには見事なスペードテールをしたスプレンデンスの姿があった。
産地を尋ねると、”ペンシャリン”とか答えが返って来た。てっきり地名なのかと思っていたら、よくよく聞き直してみて納得。自分の耳が悪かったのか、タイ人の発音が悪かったのか、正しい答えはベンジャロン!!
アユタヤ王朝の16世紀末から17世紀前半に作られたタイのベンジャロン焼きに由来する商品名だったのである。

やや黒みを帯びた体色のスプレンデンス・ベンジャロンのオス個体。背ビレ前方のエッジがやや黒みを帯びるのも、この品種の特徴のようである。鰓蓋にはスプレンデンスの特徴である赤い二本のラインが入る。
前の写真とは別個体のやや黒みを帯びた体色のスプレンデンス・ベンジャロンのオス個体。尾ビレは見事なスペードテールになっている。鰓蓋の赤い二本のラインは金色になっているが、これは興奮の具合により赤色へと変化する。

ショップの店主が5カラーと連呼していたのも、このベンジャロンに由来する。と言うのも、ベンジャロンの語源は、古代サンスクリット語のベンジャとロングに由来し、5彩と言う意味を持つそうなのである。
この5彩というのは5色と言うよりも、多色を意味している。このスプレンデンスが、それだけカラフルで美しいと言う意味らしい。
タイの魚にこうした意味のある地元タイの名産品の名称を付けると言うのは、自分は大変好ましいと考える。最近のインドネシアのベタのように、意味のない流行りの映画のタイトルやキャラクターの名称を付けるよりもよっぽど好感が持てる。なんとか商品名の由来は理解出来たので、次にこの魚の産地を尋ねてみた。
すると、返って来た答えが、ピサヌロークとプールアという地名。その姿からてっきり純系の原種なのかと思ったら、ピサヌローク産とプールア産の原種スプレンデンスを交配した品種なのだそうである。

最近のタイでは、以前このコラムでも紹介したトリプルクロスのような種間雑種のハイブリッドの交配熱も落ち着いたようである。逆に同種の地域変異同士を交配して、特徴的な色彩に更に磨きをかける動きが出て来ている。今回紹介しているスプレンデンス・ベンジャロンもこうした同種間での交配により生まれた品種である。
交配の情報を誤魔化したりせず、明らかにしながらの販売であれば、地域変異間の交配と言うのも有りであろう。

やや明るい体色をしたスプレンデンス・ベンジャロンのオス個体。各ヒレの色彩だけでなく伸長具合も美しく、全体のフォルムが非常に魅力的な個体である。ワイルドのマニアなら誰もが欲しくなってしまう個体だろう。

このような話を聞くと、かなり昔の日本でのペルヴィカクロミス・タエニアトゥスの状況を思い出す。タエニアトゥスは多彩な地域変異が魅力的な西アフリカ河川産シクリッドなのだが、地域名を誤魔化したり、異なった産地の魚をペアとして販売したために、マニアが離れてしまった黒歴史を持つ。当たり前の事だが、嘘の情報でなく、本当の情報付きで販売するのは趣味の魚として重要である。

さて、今回のスプレンデンス・ベンジャロンだが、尾びれの中央はプールア産同様に綺麗に伸長しスペード状になる。背ビレもプールア産は赤みを帯びており、その特徴をより強く引き継いでいるようだ。自分の見解だが、ピサヌローク産の特徴よりも、プールア産の特徴を強く引き継いでいる品種と言えるだろう。5カラーというのは強調し過ぎだが、ワイルドベタとしてはカラフルで美しい。自分としては、色彩よりもプールア産から引き継いだスペードテールが非常に気に入った。

スプレンデンス・ベンジャロンのメス個体。オス個体と同様に各ヒレは赤みを帯びて、背ビレの前方のエッジが黒くなる特徴も現れている。このようにしっかりと同系統のメスとペアで販売されているのは、当然の事なのだが有難い。

マハチャイエンシスはもちろん、スプレンデンスやスマラグディナのスペードテールの個体群はマニアの心を惹きつけるものがある。メス個体もヒレの赤みや背ビレのエッジの黒など、オス同様の特徴をしっかり現している。価格的にも、トリプルクロスなどのハイブリッドのように飛び抜けて高価ではない点にも好感を持てた。

この美しさでこの価格設定なら、タイだけでなく日本でもマニアが入手し易い。トリプルクロスが日本であまり普及しなかったのは、自分は価格のせいだと思っている。流石にタイ国内であの価格では、それに利益を乗せて輸出された魚は一般のマニアには手を出せない。
販売価格に魚の魅力が追い付いていない良い例と言えるだろう。

赤みを帯びた体色とスペードテールが特徴のタイ北部プールア(Phu Ruea)産のオス個体。今回紹介しているスプレンデンス・ベンジャロンは、このプールア産の特徴を強く引き継いでいる。
タイ北部ピサヌローク(Phitsanulok)産のスプレンデンスの若いオス個体。20数年前に自分が初めて採集したワイルド・スプレンデンスである。今回のベンジャロンの作出に使われたのが、これと同じような個体群かどうかは不明であるが、参考までに写真を載せておこう。

今回紹介したスプレンデンス・ベンジャロンは、これから普及するにつれ、さらに入手し易い価格に落ち着くであろう。非常に魅力的な魚なので、更に洗練され、いつまでも親しまれる定番の品種になって欲しいものである。

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