山崎浩二の「Small Beauty World」

第8回 「クラウンテール・ベタ」

クラウンテール・ベタ
伸長した軟条(レイ)がバランスよくクロスする尾びれを持つ魚を
クロスレイ・クラウンテールと呼ぶ。クラウンテール・ベタの中では
最高峰とされ、そのフォルムは見事である。

昨年の秋、タイが洪水の被害に遭っていた事は日本の報道でも嫌という程放送されていたので、日本の方でもご存知だろう。ちょうどその最中、私はタイに滞在していた。
ベタを初めとする熱帯魚のファームの多くは、バンコクから車で二時間程の場所にあるナコンパトムという辺りに集中している。洪水騒ぎの初期はこの辺りはまだ被害を受けていなかったのだが、次第に水はこの辺りまで浸水してきて、かなり多くの熱帯魚ファームが被害を被ったようである。

懇意にしているベタのファームがここにあり、近くを通りかかったので連絡をしたところ、ベタのビンを並べている辺りまで水が来たので、数万本のビンを移動させていて忙しいという話しが返って来た。あれだけのベタの入ったビンを移動させるのは大変な労力である。繁殖用の場所も使えなくなったので、しばらくはブリーディングもストップしなければならないそうである。天災(人災?)とはいえ、お気の毒な話しである。せっかくベタを見に行こうと思っていたのだが、こんな状況の中をお邪魔したら迷惑なだけである。

クラウンテール・ベタ
ブラックとホワイトの色彩が美しい
クラウンテール・ベタ。尾びれのレイの開き方は
まだまだであるが、全体のバランスは悪くない。

クラウンテール・ベタ
今回訪問したベタ・ファーム。他のファーム
同様、ウィスキーの瓶を利用して1匹ずつ 育成
している。
ずらっと並んだベタの瓶の上は人が歩いても
平気である。

ということで別なファームに連絡してみたところ、うちの辺りはまだ大丈夫なので、ぜひ寄ってくれという有り難い返事が返って来た。

このファームでは流行のハーフムーンではなく、クラウンテール・ベタを主に殖やしている。それも普通のクラウンテール・ベタではなく、コンテストレベルの魚がメインである。普通のクラウンテール・ベタと区別するために、こうしたクラスの魚はショー・クラウンと呼ばれる事もある。挨拶も早々に、すぐにベタのビンの上を歩き、魚を見せてもらう。あまりバンコクのサンデーマーケットなどのベタ屋では見られないような極上の魚がいっぱいいる。ベタ好きとしては、こんなハイグレードの魚を見せられたら涎ものである。久々にクラウンテール・ベタの撮影をしたいという意欲が湧いて来た。値段を聞くと、卸し価格とはいえ、想像以上の値段である。もちろん知り合いなので、かなり値引きしてくれているのだが、それでも並のハーフムーンの数倍はする。魚のグレードからすると納得の価格なので、厳選した10匹ほどをいただいてバンコクに戻って来た。

クラウンテール・ベタ
尾びれのレイのバランスや広がりは今ひとつ
であるが、ブルーとイエローのマーブルという
色彩は比較的珍しい。

クラウンテール・ベタ
ブラックのボディにレッドのヒレというバイカラー
の色彩のクラウンテール・ベタ。
尾びれの開きもよく、二本に分かれたレイの
広がりがもう少しあればクロスレイとなる。

さて、値段の話しになったので、ここでタイでのベタの値段の話しをちょっとしてみよう。ベタの本場タイでは、並ベタと呼ばれるトラディショナル・ベタが最も安い。次に安いのがクラウンテール・ベタである。
次にプラカット、ハーフムーン・ベタ、ジャイアント・プラカットが続く感じである。ただし、これはその品種でも並クラスの魚の値段で、それぞれのコンテストクラスの魚はこの限りではない。この値段の差というのは、管理の楽さに比例しているようだ。体質的に強健なトラディショナル・ベタやクラウンテール・ベタはブリーディングも容易でロスも少ない。それに対して、ハーフムーン・ベタ等は飼育にも手がかかり、ヒレが痛んだり形が悪かったりというようにロスも大きい。これが値段の差に結びつくのである。

クラウンテール・ベタ
この魚も尾びれのレイのバランスや開き具合は
そう良くないが、フォルム的にはかなり美しい。
ブルーのバタフライとマーブルという色彩も
見事である。

丈夫で価格も安価というのは買う側にとって都合がよいと思われがちであるが、趣味の世界ではそうはいかない。マニアにとってはワンランク下の魚と見られてしまい、悲しいかな低く扱われてしまう事が多い。

多数のベタ・ショップが立ち並ぶサンデーマーケットでも、なぜかハイグレードのクラウンテール・ベタを見る機会はそう多くはない。人気自体がプラカットやハーフムーン・ベタに比べると低いというのがその主な理由であろう。しかし、このファームで見たようなハイグレードの魚があまり市場に出回っていないというのも少なからず不人気の理由になっていると思われる。実際、今回写真で紹介したような、クロスレイ・タイプのクラウンテール・ベタはほとんど店では見かけない。このようなハイグレードの魚がもっと市場に出回れば、もう少し人気が出るのは間違いないと思われる。ただし、いつの間にか普及してしまったハーフムーンのようには量産できないらしく、そのためにまだまだ価格的にも高価なのは致し方ないところであろう。


写真・文 : 山崎 浩二

第7回 「空中で生活するカニ」

ゲオセサルマ・クラティング
葉っぱの上で獲物を待つゲオセサルマ・クラティング。
生息場所ではこうした光景があちこちで見られる

以前にこのコラムでインドネシアのゲオセサルマ属のカニを紹介した。自分がフィールドワークの基地としているタイにも本属のカニが2種類生息しているという。甲殻類好きとしては、ぜひこのゲオセサルマ達の自然での生活を見てみたいと思い、記載論文を入手して、その生息場所を探してみることにした。
まずは何度も採集に訪れて土地勘もある地域に生息しているというゲオセサルマ・クラティング(Geosesarma krathing)を探索する事にした。本種はタイ東部のチャンタブリという場所に生息している。この場所は自分が20年程前に初めてタイを訪れた際に採集に来た場所である。その際に未記載種のベタを見つけたのが、東南アジアでのフィールドワークにのめり込むようになったきっかけである。このベタは後にベタ・プリマという学名に記載された。ベタの他にも、珍しい水草が豊富に生息している湿地もあり、幾度となく撮影に訪れている思い出深い地域なのだ。

ゲオセサルマ・クラティング
獲物を待つ際にはこのようにやや幅のある
葉っぱの上でじっとしている。
普段は敏捷なのに、この際は触っても逃げ
ない程大胆になる

ゲオセサルマ・クラティング
植物の茎を登っているところ。小型なだけ
あってかなり身軽に行動できる。
日が暮れるとこのように登って葉っぱの上に
移動する

記載論文を読むと、ゲオセサルマ・クラティングは、現地でカオ・カティンと呼ばれる滝付近に生息していると書かれている。種小名のクラティングはこの生息場所から名付けられている。タイ語の発音に習うと、クラティングではなくカティンと呼ぶ方が良いかもしれない。
生息場所の情報を入手して、カオ・カティンを訪れたのが約1年前。その際にはどのような場所に生息しているのかが分らず、滝の上流の渓流近くを探したのだが残念ながら出会う事はできなかった。その半年後にもまた探索を行ったのだが、またしても出会う事はできなかった。生物を探す際には、一度その生息環境さえ理解してしまえば、次は比較的容易に見つけることができるのだが、その最初の一歩に辿り着けなかったのである。
今年の10月、タイを訪れた際にふと入った本屋で見つけた雑誌にこのゲオセサルマ・クラティングの記事が載っているのを見つけた。すべてタイ語なので、自分には全く書いてある内容は理解できない。知り合いのタイ人に読んでもらうとかなり有効な情報が書いてあるようだった。幸いにもこの雑誌の編集長だったノン氏は自分の知人である。すぐに電話してこのカニの情報を得る事ができた。その情報を元に再々度のチャレンジである。今回は現地で本種を知っているという方の連絡先まで教えていただいたので、容易に生息場所まで辿り着く事ができた。持つべき物は友である。
彼らの生息場所は滝のある渓流のような場所ではなく、山間の湿地のような場所で、アロカシアなどの植物が茂っている環境であった。いくら渓流沿いを探しても見つからないはずである。探していた場所が間違っていたのである。

ゲオセサルマ・クラティング
植物の上を忍者のように渡り歩く。
このような行動はハエトリグモや昆虫の
ようである

ゲオセサルマ・クラティング
ゲオセサルマ・クラティングの雌。
雄は雌よりも大きなハサミを持っている。
雌は卵を腹部に抱くので、幅が広くなっている

日が暮れた生息場所に案内してもらうと、すぐに草の上に登っている本種に出会う事ができた。初めての出会いに興奮して撮影していると、次々に腰の丈程もある草の上でじっとしている本種に出会う事ができた。想像以上の生息数であった。大型個体ほど高い場所にいて、小型個体はやや低い場所にいる。草に登っている途中のカニもたくさんいる。他の同属の種類同様、本種も成体で甲幅が15mm程の小型種であり、身軽なようだ。普通夜行性のカニは光を嫌い、ライトを当てると嫌がって逃げるものだが、このカニは全く逃げもしない。数多くのカニを撮影してきたが、こんなに撮影が楽なカニは初めてである。
しばらく観察していると、なぜ彼らが葉っぱの上でじっとしているのかが理解できた。撮影のために照らしていたライトに蛾が飛んで来たその時、彼らが俊敏に動き、その蛾を捕らえて食べ始めたのだ。試しに他の小さい虫を目の前に落とすと、やはり素早く動いて捕らえた。そう、彼らは葉っぱの上で餌となる昆虫を待っていたのである。その生態はカニというよりも、ハエトリグモやカマキリのようである。
さらに観察していると、彼らは草に付いた夜露をなめている。水分の補給は水に入るのではなく、草の露に依存しているみたいである。草の上で脱皮直後のカニも見つける事ができた。陸上生活に適応したアカテガニでさえ、脱皮の際には水中に入る。本種は完全に水中での生活から陸上での生活に適応しているようだ。
案内していただいた方に聞くと、本種の繁殖時期は1月から4月という事である。この時期はタイでは乾期のまっただ中だ。幼生が海に下るのではなく、大型の卵の中で発生が進んだ段階で孵化する大卵型の繁殖をするという事だが、どのような繁殖生態なのか興味深い。来年の繁殖シーズンに再度訪れて観察する予定である。

ゲオセサルマ・クラティング
バッタを捕らえたカニ。小型で動く物なら
何にでも反応して捕食するようである

ゲオセサルマ・クラティング
蛾を捕らえて食べるカニ。
獲物を捕らえる際には持ち前の
俊敏さを見せる

ゲオセサルマ・クラティング
葉っぱの上で脱皮を済ませたカニ。
水気のない場所で脱皮するカニは非常に
珍しい

ゲオセサルマ属のカニの中には、孵化した子ガニをヤドクガエルのように背中に抱く種類も知られている。またマレーシアにはウツボカズラの中を生活の場としている種類もいる。
ペット用としてインドネシアから輸入されている本属のカニ達も現地では興味深い生態を持っているに違いない。
海産起源のカニがどのように淡水での生活に適応し、さらには陸上生活に移行しようしているのかは非常に興味深い。
また新たな知見があれば、このコラムで紹介したい。


写真・文 : 山崎 浩二

第6回 「ベタの原種」

ベタ・スプレンデンス
【闘争】
雄同士で闘争するタラット産のベタ・スプレンデンス。
闘争時にはきらめく体色を見せる

数多くの色彩やヒレの形が楽しまれているベタであるが、派手で大きな綺麗なヒレを持っているのはすべて人により作り出された改良品種である。あまり紹介される機会の少ない原種ベタ(Betta splendens)は、ヒレも小振りで色彩も改良品種ほど派手ではない。 この原種ベタは、元々はタイの平野部に広く分布していたようである。しかし、人々の生活による生息場所の破壊により、現在では一部の地域でしか見る事ができなくなってしまっている。
また、改良品種が自然に放たれた事により交雑してしまい、本当の意味での原種を見つける事は非常に難しくなっている。
改良品種の元になっているベタ・スプレンデンスの原種がバンコクを中心とするタイの平野部に生息するのに対し、タイ東北部には近縁種のベタ・スマラグディナ、タイ南部にはベタ・インベリスが生息している。またバンコク近郊の汽水域にはベタ・マハチャイと呼ばれる未記載種も生息している。これらの種類は近縁な事から飼育下ではベタ・スプレンデンスとの交雑も可能である。

ベタ・スプレンデンス
【雌】
雄に比べると各ヒレが短く、色彩も地味である。
繁殖時には体側に不規則な横縞が現れる

ベタ・スプレンデンス
【求愛】
雌(写真奥)に求愛するクローンヤイ産の
若いベタ・スプレンデンスの雄。
闘争時同様に赤や青の色彩が濃くなり、
魅力的な色彩に変身する

一昨年の暮れ、このベタ・スプレンデンスの原種を撮影したいとの依頼が某国営放送の知人から連絡が入って来た。海水魚がテレビで取り上げられる機会は多いが、淡水の熱帯魚が放送される機会はほとんどない。これは一般の人に熱帯魚の魅力を知ってもらうチャンスと思い、喜んで仕事を引き受けた。昨年3月中旬から4月中旬まで、この撮影のためにタイ東部のベタ・スプレンデンスの原種の生息場所に滞在し、現地のフィールドの案内の他、飼育や繁殖のアドバイスをしてきた。この番組は昨年の9月に、ダーウィンが来た!生きもの新伝説「空気の魔術師 闘魚ベタ」で放送されたので、見た記憶のある読者の方も多い事だろう。
一般の方向きに編集してあるので、ちょっとマニアの方には物足りなかったかもしれないが、ベタという魚を知ってもらうには良い機会であった。

ベタ・スプレンデンス
【雄】
タイ東部タラット産のベタ・スプレンデンスの雄。
数は非常に少ないが、たまにこのように
尾びれの形が異なる魚も見られる

ベタ・スプレンデンス
【生息場所】
タイ東部クローンヤイのベタ・スプレン
デンスの 生息場所。
岸際の浅い場所の草の間に生息している

ベタ・スプレンデンスの原種の生息場所は、草の茂った浅い湿地や水路である。あまり深い場所には生息しておらず、水際の草の陰など浅い場所を好む。
水が引き水位の下がった乾期に同じ場所に泡巣を作り繁殖する。繁殖期のオスは体色が濃くなり、ヒレの色彩も美しくなり、見違えるように変身する。色彩的にはややベタ・インベリスにも似るが、頬に赤いラインが2本入るのがベタ・スプレンデンスの特徴である。

最近になり、多少このベタ・スプレンデンスの原種が輸入されるようになっているので、興味のある方は飼育にチャレンジしていただきたい。
飼育は容易で、雌雄揃っていれば興味深い繁殖まで楽しめる。餌はあまり人工飼料を好まないので、生き餌や冷凍赤虫が適している。


写真・文 : 山崎 浩二

第5回 「ディープレッドバンパイア・クラブ」

ディープレッドバンパイア・クラブ

今回ここで紹介するのは、インドネシアの淡水域に生息するゲオセサルマ(Geosesarma)属のカニである。
以前この仲間はイワガ二科(Grapsidae)に置かれていたようだが、現在ではベンケイガニ科(Sesarmidae)に置かれている。ベンケイガニ科というと、日本でもペット用として馴染み深いアカテガニが含まれているグループである。甲羅の形がサワガニなどに比べて角張っているのが、この仲間の共通点である。
アカテガニやベンケイガニ、クロベンケイガニなどは、海水から汽水域、さらに淡水域まで生息域を広げることもあるが、基本的に卵から孵化した幼生は海で育つ。この科に属するカニのほとんどが海産で小卵型である。それに対して、ゲオセサルマ属のカニ達はさらに陸上に向けて適応し、淡水域で一生を終える陸封型の繁殖形態を身に付けている。やや大きめの卵を産み、幼生時代を卵の中で過ごし、子ガニの形になって孵化してくる。

ディープレッドバンパイア・クラブ

マレーシアやシンガポールに生息している種類などでは、さらに特異な方向へと進化を遂げている。水辺ではなく、ウツボカズラの中の水を生息場所としているのである。
このように生態的にも非常に興味深いが、本属のカニで特筆すべきはそのサイズである。ほとんどの種類で甲羅の幅が2cmを越えない。カニとしては非常に小型種揃いなのである。
本属のカニはフィリピンからインドネシア、マレーシア、タイにまで広く分布し、50種類近くが記載されている。その中でもインドネシア産の数種類はここ数年コンスタントに入荷するようになっている。
カリマンタンレッド・クラブやバンパイア・クラブなどが代表種といえるが、同じインボイス名で異なった種類が入荷することもあるので、注意が必要である。

ディープレッドバンパイア・クラブ

今回、写真で紹介している種類は、同じくインドネシアからインボイス名レッドカーニバル・クラブで来たものだが、日本ではディープレッドバンパイア・クラブの名称で親しまれている。ゲオセサルマ属であるのは間違いないが、学名は今のところ不明である。同じ便で届いた個体は、色彩的に非常に変異に富んでおり、甲が真っ赤に染まる個体、半分だけ赤くなる個体、ややオレンジ色になる個体、まだら模様が入る個体などが見られる。こうした個体による色彩変異は、バンパイア・クラブなどにも見られる。
この仲間は小型なので、飼育も難しくない。飼育の際には小型のプラスチック・ケースやオールグラスの水槽などを使用するとよいだろう。浅く水場を作ってやり、陸上の方を広くしてやる。観察していると、普段は水の中にいるのを嫌い、陸上の方にいる事の方が多い。砂利と流木だけのシンプルなレイアウトでも十分飼育は可能だが、苔やミニ観葉などでミニテラリウムを作ってやると見栄えもいいし、カニ自体も隠れ場所ができて落ち着く。
飼育の際に注意したいのは脱走である。本属のカニは非常に運動能力に優れており、かなり動きは敏捷である。例えていえば、ゴキブリ並みの早さで走り回る。またいとも簡単にエアーチューブなどを上って水槽から脱走する。そのため飼育容器には隙間のないようにきっちりと蓋をしておこう。

ディープレッドバンパイア・クラブ ディープレッドバンパイア・クラブ

餌は魚用の人工飼料や冷凍赤虫など、何でも良く食べるので、食べ残しのないように少しずつ与える。
雌雄の判別も容易である。オスではハサミがやや大型になるのに対し、メスはあまり大きくならない。また腹部の通称カニのふんどしと呼ばれる部分を見れば一目瞭然である。三角で細いのがオスで、丸く大きいのがメスである。雌雄を飼育していれば、水槽内で交尾し、産卵も行われ、繁殖も可能である。
小型水槽でも手軽に飼育でき、コレクション性も高いゲオセサルマ属のカニは、これからもっと普及していくであろう。その魅力をいち早く体験していただきたい。


写真・文 : 山崎 浩二

第4回 「渋い魅力のハーフムーン・ベタ」

ハーフムーン・ベタ

前回はプラカットを紹介したので、今回は今ベタの中で最も人気の高いハーフムーンを紹介しよう。
このハーフムーン、日本では抜群の人気を誇るが、ベタの本場タイでは圧倒的にプラカットに人気の点で負けている。
プラカットがタイで昔から親しまれて来た生粋のタイの品種なのに対し、ハーフムーンは欧米で品種改良が進められ、その後にタイに里戻りした品種であるのも、その人気の差の理由のようである。ベタ専門ショップが多く立ち並ぶバンコクのサンデーマーケットを歩いてみても、圧倒的にプラカットを扱っている店の方が多く、ハーフムーン専門店というのはまだまだ少ない状況である。

ハーフムーン・ベタ

タイのベタ・ブリーダーの技術を持ってすれば、プラカットの新品種の色彩をそのままハーフムーンに移行することなど朝飯前の気がする。しかし、どうも色彩に関しては、プラカットの方が常に先に進んでいるのに、ハーフムーンでは色彩バラエティが少ないというのが現状である。この辺りにプラカット・ブリーダーとハーフムーン・ブリーダーの意気込みの違いをみる事ができる。
とはいえ、同じ色彩の魚ばかりでは商売にならないというのは、ハーフムーン・ブリーダー達も理解しているようで、ここ最近は少しずつではあるが、おっ!という色彩のハーフムーンを見かけるようになってきた。

今回はその中から、ブラックをベースにし、そこにドラゴン系やメタル系のシルバーやホワイトが入る渋い色彩のハーフムーンを紹介しよう。

ハーフムーン・ベタ

こうした品種は、レッドやブルーといった原色を身に纏った派手な品種に比べると地味な印象を受けるが、非常に不思議な魅力を持っており、マニアの間で人気が高い。特に日本人は、改良品種でもブラックやホワイトの品種が好きな傾向がある。そんなマニアには、正にツボといった品種と言えるだろう。ただし、一般人にはその魅力はやや理解し難いものがあるので、決して同意は求めない方がよいだろう。ちなみにハーフムーンの中で最も一般受けのする色彩は、ラベンダーと呼ばれ、ピンクがかったレッドに白い縁取りの入るものである。確かに可愛らしく万人受けのする色彩であるが、へそ曲がりのマニア達はこうした色彩には目もくれず、ひたすら地味な色彩の魚を追いかける傾向がある。そういう自分もその一人なのであるが。

ハーフムーン・ベタ ハーフムーン・ベタ

今回、タイミング的にヒレが大きく伸長した成魚が入手できなかったので、やや若い魚をモデルにしている。言い訳ではないが、もしハーフムーンを飼育する場合、個人的には後は衰えていくだけの完成した成魚よりも、こうした若い魚の方が長く楽しめるのでお勧めだ。老成した魚に比べフレアリングもはつらつとしていて見ていて気持ちがよい。

ベタに関しては、日々新しい品種が作出され、ベタ専門店の店頭を賑わせている。このコラムでも今後定期的に新品種を紹介していきたい。


写真・文 : 山崎 浩二

第3回 「夏色のプラカット」

プラカット

今回はベタの本場タイのバンコクにあるサンデーマーケットで見つけた、夏にぴったりの色彩をしたプラカット達を紹介しよう。
その前に、まずはプラカットって何?っていう初心者のために、ベタの品種をおおまかに解説するところから始めよう。通常ベタと呼ばれる魚は、ベタ・スプレンデンス(Betta splendens)の改良品種である。
タイにはこのベタ・スプレンデンスの原種も生息しているが、開発による生息場所の破壊、改良品種との交雑などにより、現在では見るのが難しい状況となっている。この原種に関しては、今後このコラムで紹介する予定である。
日本のショップなどで一般的に見られるベタは、トラディショナル・ベタとも呼ばれる事がある改良品種で、長く伸びたヒレが優雅である。価格的にも手頃で、熱帯魚ショップならどこでも販売しているポピュラー種である。
最近、人気が高いのが、美しいヒレをさらに改良し大きく広げたハーフムーンと呼ばれる品種である。これは尾びれを広げた形状が半月のようになることに由来する。ここまで尾びれが広がらない魚は、スーパーデルタと呼ばれ区別される。このハーフムーンは、欧米ではよくコンテストも開催され、その美しさが競われている。このコンテストの事をショーと呼び、ショークォリティ・ベタというのを省略し、ショー・ベタと呼ばれる事もある。

プラカット

各ヒレの軟条が伸長し、櫛の歯のようになった改良品種は、コームテール・ベタ、あるいはクラウンテール・ベタと呼ばれる。この呼び名は良い個体の尾びれが王冠のような形状に広がる事に由来している。主にインドネシアで養殖される事から価格的にも手頃な品種である。
タイ語で噛む(カット)魚(プラ)と呼ばれ、闘魚に使用されてきた品種がプラカットである。これは他の改良品種のようにヒレは伸長していないが、原種に比べて大きな体、がっちりとした頭部が特徴である。スリムなボディの原種とは大きく異なる体形をしている。
このプラカット、当初は闘魚のために使われ、強い血筋を固定しているうちに色彩も様々なバラエティが固定されるようになった。そのうち、闘魚のためではなく純粋に鑑賞用として改良されるようになり、現在でもその改良は盛んである。
タイではベタというとこのプラカットが最もポピュラーで、マニアにも人気が高い。バンコクのサンデーマーケットのベタ・ショップでは、このプラカットが最も多く販売されている事からもその人気の程が理解できるだろう。ベタ・ブリーダー達もこの魚の改良に全力を注いでいるようで、洋服のニューモデルのように常に新しい色彩をした魚が市場を賑わせている。この改良の勢いは他の改良品種のベタには見られない事から、いかにタイ人がこのプラカットに力を注いでいるかがわかるだろう。

自分は大学生の頃に初めて闘魚用のプラカットを飼育してから、この魚のファンである。約30年間この魚を見続けているが、その改良は止まるどころか、さらに加速している感がある。タイを訪れる度にサンデーマーケットのベタ屋を端から端まで見て歩いては、ニューカラーを見つけると購入して撮影している。
今回、写真で紹介しているホワイトブルーマーブルのプラカットは、最近になって登場した改良品種で、非常に涼しげなカラーパターンが美しい。正にサマードレスのような印象で、夏向きである。このマーブル模様の魚は同じ柄の魚がいない程バラエティに富んでおり、選ぶ際には非常に目移りしてしまう。今回は迷いながらも厳選して選んだ個体をご覧頂きたい。

プラカット

これだけの美しさのプラカットなのだが、巷ではどうしてもハーフムーンに人気の点で負けているという話しを良く耳にする。カラーパターンの豊かさでは勝負にならない程勝っているし、多少の水質の悪化でヒレが痛むことがない強健さもある。まだ飼育した事がないという方はぜひ一度飼育して、その魅力を楽しんでいただきたい。


写真・文 : 山崎 浩二

第2回 「西表島のハヤセボウズハゼ」

ハヤセボウズハゼ

最近、アクアリウムの世界でも小型ボウズハゼの仲間は色々な種類が輸入されるようになり、アクアリストを楽しませている。
小型ボウズハゼの仲間は姿が美しいだけでなく、水槽内に発生する藻類も食べてくれるので、掃除屋さんとしても役に立つ魚なのである。
まあ、そのパワーはオトシンクルスやイシマキガイには完全に負けてしまうが。

アクアリウム・トレードでインドネシアなどからボウズハゼが入荷するようになったのは比較的近年になってからで、20~30年前は入手が難しい魚であった。
日本産の淡水魚に興味のある方なら当たり前のように知っている事であるが、このボウズハゼの仲間は国内でも、沖縄には多数の種類が生息している。
海外産の種類の入手が難しかった時代は、この国産ボウズハゼの仲間の飼育を楽しむしかなかったのである。
その中でもスターは、ナンヨウボウズハゼで、その美しいオレンジ色の色彩とフォルムは熱帯魚にも負けない魅力を持っている。
西表島自分がまだ学生時代、卒論のエビの研究のために石垣島や西表島を訪れた際には、どこの川を覗いても、美しい色彩をきらめかせたこのナンヨウボウズハゼが乱舞していた。
残念な事にこの様子は現在では、西表島の一部の河川でしか見る事ができなくなっている。
石垣島などでは河川の改修が進み、護岸工事されてしまった事や、開発のための赤土の流出などの環境破壊のため、絶滅はしていないが、生息数が激減してしまっているのである。

ライフワークである淡水エビの撮影のために、学生時代から毎年のように石垣島と西表島に通っている。
普通種であるナンヨウボウズハゼの他、個体数の少ないフデハゼ、カエルハゼ、ヨロイボウズハゼなども、たまに目にして来たが、何と言ってもレアなのは、ハヤセボウズハゼである。
この30年間で、まだ2回しかお目にかかっていない。
一番最初に彼らに出会ったのは、もう20年程前に西表島の一河川であった。
最初はナンヨウボウズハゼのブルータイプだと思っていたのであるが、ハゼに詳しい知人に写真を見せたら、希種であるハヤセボウズハゼだという。
確かに第一背びれがナンヨウボウズハゼのように鎌形に伸長しておらず、胸びれに細かいスポットも入っている。
青みを帯びた色彩が良く似たコンテリボウズハゼとも、この胸びれのスポットの有無で容易に判別できる。

それ以来、彼らに出会う事がなかったのであるが、二年前に西表島を訪れた際に、久々に出会う事ができた。
その河川はまだ昔のようにナンヨウボウズハゼが多数群泳しているような自然が残った場所なのであるが、水中を見ているとメタリックブルーに輝く一際目立つ魚がその中に泳いでいた。
数年ぶりに出会った彼らの姿は、旧知の友人に久々に会うような懐かしさを感じさせてくれた。
一部の文献によると、ハヤセボウズハゼは日本の固有種であるとされている。
しかし、この個体数の少なさは普通の魚では有り得ない。
この仲間は両側回遊魚である事から、太平洋の他の島々にもっと個体数の多い本当の生息場所があるように思われる。
日本では希種とされるフデハゼ(アカボウズハゼ)なども、インドネシアでは生息個体数が多いようで、まとまって輸入されるのはそうした理由である。
ハヤセボウズハゼ近年、他の太平洋の島々に生息するようなボウズハゼの仲間が、沖縄に生息しているのも確認されている。
この仲間は両側回遊魚であるから、海流の流れなどにより、たまたま稚魚が流れ着き遡上した可能性が高い。
死滅回遊なのか、それとも新分布となり、生息域を広げていくのか興味深いところである。


写真・文 : 山崎 浩二

第1回 「小型オリジアスのニューフェイス」

今回ここで紹介するのは、昨年新種として記載されたばかりのオリジアス・ソンクラメンシスOryzias songkhramensisで、同属のミヌティルスO. minutillusやメコネンシスO. mekongensis、ペクトラリスO.pectoralisに近縁な小型種である。
オリジアス・ソンクラメンシス 分布域はタイ東北部からラオス中部にかけてのメコン川流域である。種小名は、本種が分布しているタイ東北部のメコン川水系のソンクラム川(Songkhram River)から名付けられている。
一見したところ同属のミヌティルスとかなり良く似ているが、本種は落ち着くと腹膜の辺りが黒く染まり、体側に黒いラインが入ったように見える。また胸びれの基部に小さな黒いスポットが入るのも特徴である。
ミヌティルスに見られる総排泄口付近の小さな黒いスポットが本種にはないので、その点でも判別は容易である。
本種が新種として記載されたのは2010年4月だが、それ以前からその存在は知られており、日本にも輸入されていたのはマニア以外にはあまり知られていないだろう。 その際には尾びれに赤の入らない汚いメコネンシスという可哀想な扱いであり、ミヌティルスとの同定間違いではないかという見解も出ていた。しかし、採集場所を確認したところ、間違いなくタイ東北部であり、これはミヌティルスとは分布域が明らかに異なるため、メコネンシスの地域変異だろうぐらいに片付けられていたのである。
オリジアス・ソンクラメンシス過去に日本に輸入された際に、私は東京の輸入元のストック水槽で本種を見ていたのだが、薬品が入っており水に色が付いていた事、落ち着いていなかったため特徴的な色彩が出ていなかった事から、新種であることを見落としていた。
こうしたデリケートな小型魚は、自宅の水槽で落ち着いた状態で観察する事が非常に大切である。魚を見る際には先入観などを捨てなければいけないのだが、たまにこれを忘れてしまうので、反省しなければいけない。 昨年、本種の記載論文を入手したところ、そのタイやラオスの分布域は以前に数回撮影や採集に訪れていた場所である。本種のようなオリジアスは現地では水面を群れで泳いでいるため非常に確認しやすい。なので存在自体は知っていたが、いつもメコネンシスだろうと考えて、網で掬って確認する事を怠っていたのである。

昨年11月、やっとタイとラオスに行く機会があり、念願であった本種の生息場所の確認をするチャンスが訪れた。
まずはラオスのビエンチャンから探索を始め、郊外の水田地帯で本種の生息を確認できた。続いてノンカイからタイ側に入り、本種のホロタイプが採集されたRatanawapiへと向かう。すでに乾期が始まっており、水田はみんな乾いている。水を求めて探すと広大な湿地帯が現れた。ここなら間違いなく生息しているだろうという予感の通り、すぐに水面を泳ぐ本種の姿が眼に入った。 急いで網で掬い、ビニール袋に移し確認をする。間違いなくソンクラメンシスだ。
今回写真で紹介しているのは、この場所で採集した個体である。 イサンと呼ばれるタイ東北部には、ソンクラメンシスとメコネンシスの他、ペクトラリスも生息しているという情報がある。ペクトラリスはまだ自分の眼で確認していないので、これからの課題である。もしかするとこれら以外にも新しいオリジアスも存在しているかもしれない。機会あれば、続いて小型オリジアスの探索はしていきたい。

最後に飼育だが、日本の水道水ならば、塩素を抜けば調整する事もなく飼育でき、飼育は容易である。
餌はブラインシュリンプのような小型の餌が最適だが、フレーク場の餌を細かく砕いて与えてもよいだろう。状態良く飼育していれば、繁殖も容易である。産卵は午前中に行われる事が多く、体に比べやや大型の卵を腹部に付着させて泳ぐ様子も観察できるだろう。


写真・文:山崎 浩二

1963年岩手県生まれ。日本大学農獣医学部水産学科卒業。
熱帯魚などの水棲生物の撮影を中心に活動し、特に小型美種の美しい色彩を再現する撮影技術は国内はもとより海外からも非常に高く評価されている。また東南アジアを中心としたフィールドにも明るく、ライフワークともなっている。
著書に『世界のメダカガイド』『淡水産エビ・カニハンドブック』(文一総合出版)、『たのしいカメ・メダカ・オタマジャクシ・ザリガニ・ヤドカリ』(主婦の友社)、『熱帯魚アトラス』(共著・平凡社)その他多数。